COLUMN

2025.07.28

企業価値を見極める「DCF法」とは?
評価手法の基本と重要性を解説

  • 企業価値向上

企業価値を見極める「DCF法」とは?評価手法の基本と重要性を解説

目次

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企業価値評価においてDCF法が重要である理由は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くことにより、企業の将来的な収益性を、より正確に反映した価値を算出できるためです。そのため、DCF法は、M&Aや投資判断など、将来的な企業価値を評価する際の重要なツールとして広く活用されています。

1.DCF法のメリットとポイント

DCF法のメリット

(1)将来の収益性を反映できる
DCF法は、将来のキャッシュフローを基に評価を行うため、企業やプロジェクトの収益性を直接反映することができます。
短期的な利益だけでなく、長期的な価値を評価する場合に適しています。

(2)資本コストを考慮できる
割引率として資本コスト(WACC: 加重平均資本コスト)を使用することで、投資家が求めるリターンやリスクを考慮した評価が可能です。

(3)柔軟性が高い
さまざまなシナリオを設定して、異なる条件下での企業価値を試算することができます。
例えば、売上成長率や利益率の変化を反映させることで、リスクや不確実性を評価できます。

(4)理論的に整合性がある
DCF法は、経済学や財務理論に基づいて、企業価値をキャッシュフローの現在価値として計算するため、理論的な裏付けのある手法です。

(5)非上場企業にも適用可能
株価データがない非上場企業においても、将来のキャッシュフローを予測することで価値を評価できます。

DCF法のポイント

(1)キャッシュフローの予測
DCF法の基礎となるのは、将来のキャッシュフローの予測です。売上、コスト、税金、設備投資、運転資本などを正確に見積もる必要があります。
過去の実績や市場動向を参考にしつつ、現実的な予測を行うことが重要です。

(2)割引率の設定
割引率は、通常WACC(加重平均資本コスト)を使用します。これは、企業が資金を調達する際のコストを反映したものです。割引率の設定が適切でない場合、評価結果が大きく変動するため、慎重に選定する必要があります。

(3)予測期間の設定
DCF法では、通常5~10年程度の予測期間を設定します。その後のキャッシュフローは「永続価値(Terminal Value)」として計算します。
永続価値の計算方法(例えば、成長率を一定と仮定する方法)も評価結果に大きな影響を与えます。

(4)不確実性の考慮
将来のキャッシュフローや割引率には不確実性が伴います。そのため、感度分析(Sensitivity Analysis)を行い、さまざまな条件下での評価結果を確認することが推奨されます。

(5)実務での適用
DCF法は理論的には優れていますが、実務では予測の精度や割引率の設定が難しい場合があります。そのため、他の評価手法(例えば、類似企業比較法や市場価値法)と併用することが一般的です。

2.DCF法のデメリットと注意点

(1)将来のキャッシュフロー予測の不確実性
DCF法は将来のキャッシュフローを予測することが前提となりますが、将来の売上、コスト、利益率、設備投資などを正確に予測することは非常に難しいです。
影響: 特に市場環境が不安定な場合や、企業が新規事業に進出する場合など、予測の精度が低下し、評価結果が大きく変動する可能性があります。

(2)割引率の設定が難しい
課題: 割引率(通常はWACC: 加重平均資本コスト)を適切に設定することが難しい場合があります。割引率は企業のリスクや資本構成を反映する重要な要素ですが、正確な計算には多くの仮定が必要です。
影響: 割引率が少し変わるだけで、企業価値の評価結果が大きく変動するため、評価の信頼性が低下する可能性があります。

(3)永続価値(Terminal Value)の依存度が高い
課題: DCF法では、予測期間終了後のキャッシュフローを「永続価値(Terminal Value)」として計算しますが、この部分が評価結果に大きな影響を与えることが多いです。
影響: 永続価値は通常、一定の成長率を仮定して計算されますが、成長率の設定が不適切だと評価結果が大きく歪む可能性があります。また、永続価値が全体の企業価値の大部分を占める場合、評価の信頼性が低下します。

(4)短期的な要因を反映しにくい
課題: DCF法は長期的なキャッシュフローに基づいて評価を行うため、短期的な市場動向や経済状況を十分に反映できない場合があります。
影響: 短期的な業績や市場の変化が重要な場合、DCF法だけでは適切な評価ができない可能性があります。

(5)実務での適用が複雑
課題: DCF法は理論的には整合性があるものの、実務で適用する際には多くのデータ収集や仮定設定が必要であり、計算が複雑です。
影響: 特に中小企業や新興企業、スタートアップ企業では、必要なデータが十分に揃わない場合があり、評価の精度が低下する可能性があります。

3.DCF法計算方法

DCF(Discounted Cash Flow)計算式は、企業価値や不動産価値の算定に使用される手法で、主に将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて計算します。基本的な計算式は以下の通りです。

(1)フリーキャッシュフロー(FCF)の予測

営業キャッシュフロー(営業利益 × (1 - 法人税率) + 減価償却費)
投資キャッシュフロー(設備投資額 - 資産売却益)
FCF = 営業キャッシュフロー - 投資キャッシュフロー

(2)割引率の決定

加重平均資本コスト(WACC): 負債コストと株主資本コストを、負債比率と株式比率で加重平均したコスト
WACC = (負債コスト × 負債比率 × (1 - 法人税率)) + (株主資本コスト × 株式比率)

(3)ターミナルバリュー(TV)の算出

予測期間終了後のキャッシュフローを永続的に継続すると仮定し、現在価値に換算する
TV = 予測期間終了年度のFCF × (1 + 永久成長率) / (割引率 - 永久成長率)

(4)企業価値の算出

予測期間中のFCFとターミナルバリューを割引率で現在価値に割り引き、合計する
企業価値 = Σ(FCF/(1 + 割引率)^年数) + TV/(1 + 割引率)^予測期間年数

DCF法は、将来の収益性や成長性を見込める企業価値を算定する上で重要な手法です。しかし、将来のキャッシュフロー予測や割引率の決定には不確実性が伴うため、専門的な知識と経験が必要となります。

DCF法を活用する意義について

DCF法は企業価値評価において、将来の収益性を反映した評価を可能にする重要な手法です。M&Aや投資判断など、将来的な企業価値を評価する際に、DCF法は重要なツールとして活用されています。ただし、DCF法は将来予測に基づいた評価手法であるため、予測の不確実性や割引率の設定の難しさなど、注意点も考慮する必要があります。

そのため、DCF法単独で利用するのではなく、その他の評価手法と組み合わせることにより、総合的に判断することが重要です。特に成長途中の企業や、ブランド力やノウハウといった無形資産を持つ企業の価値評価に適しています。

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